〜心の処方箋〜映画『ブルーに生まれついて』レビュー
箸休めとして映画レビューなるものを書いていこうかと
私は、よく映画鑑賞をします。
視覚的な情報は、人間が感じられる知覚の中でも特にダイレクトに訴えかけてくるので、映像を通して他人の人生を体験しているような感覚になれるのが面白い。
大笑いして、ドキドキハラハラ興奮して、涙が出て、そんな風に心が揺り動かされたり、日常の言語化できないもやもやに突然答えが出ることも。
(ただ後味が悪い時もありますが。笑)
そんな『心の変化』が訪れるのを期待して『これが効くんじゃない?』と、自分に映画を処方するような気持ちで選ぶときがあります。
これから少しずつ、私が見た映画のレビューを通して得た『心の変化』などを書いていきますので、興味の湧く作品があれば、みなさんもストレス発散を兼ねて是非観てみてください!
ただし、一様の心の変化がみなさんに訪れるわけではありませんので、そこはお手柔らかに。笑
共感でも、全然違う心の変化が訪れた、違う視点で見たでも良いので、お気軽にコメントいただけますと嬉しいです。
好きな俳優見たさと不安の間で揺れ動く私の心(笑)
画像はhttp://eiga.com/movie/83140/photo/より引用
初めてご紹介する作品は『ブルーに生まれついて』。
監督:ロバート・バドロー
キャスト:イーサン・ホーク、カルメン・イジョゴ、カラム・キース・レニー、等
製作年:2015年
上映時間:97分
日本では、昨年11月末から公開されており、主演は『6才のボクが、大人になるまで』や『ビフォアシリーズ』などで有名なイーサン・ホーク。
私の好きな俳優ということもありもう少し早く観に行きたかったのですが、ストーリーを読んで若干ひよってしまいました。
主人公は1950年代のジャズトランペット奏者、チェット・ベイカー(イーサン・ホーク)。
黒人アーティストが主流だった(らしい)ジャズ界で甘いマスクとソフトな声でファンを魅了する一方、ドラッグに手を染め身を滅ぼしていく…。
映画は、そんな主人公の自伝映画の撮影から始まるのですが、元妻役の女優ジェーン(カルメン・イジョゴ)と撮影後にボウリングを楽しみ、出てきたところを麻薬の売人の暴行に遭い、前歯はすべて失うわ、顎は砕かれるわで病院送り…。
キャリアを続けていくことは不可能に見えたチェットでしたが、ジェーンの愛に支えられながら、自身の人生を取り戻すために、ドラッグからの離脱とトランペット奏者としての再起を目指すストーリーです。
観るのにひよったのは、前歯が折られたり顎を砕かれるシーンが、チェットの心がその後の挫折で滅多無性に打ち砕かれていくことのメタファーであろうと想像すると、暗い気持ちで終わってしまうんじゃないか…と恐れたからです。
(映画に明るい人はこんなこと言わないんでしょうけど、すみません、人には得意不得意がありますから笑)
実際は、『人間』の難しさが表現された、ただの良作だった!
物語は、ドラッグの誘惑に駆られ、過去の栄光の片鱗もない演奏をするチェットの姿とともに進んでいきます。
ドラッグに溺れているミュージシャン、というだけだと多くの人は共感しづらいかもしれません。
でも、その傍らには信じられないほど良い女ジェーンがいつも寄り添い、献身的な支えによって、少しずつ人生に向き合おうとする、ダメ人間チェットなりの人間的な善良さが少しずつ引きずり出され、私の当初の恐れは静かに消化されていきました。
その一方で、主人公が周囲に献身的に支えられて再生する映画って結構ありますし、人生ってそう上手く運ばない、という気持ちも湧いてきます。
…欲張りですね。笑
だって、日常生活はやってはいけないことだと分かっていてもやめられない苦悩であふれ返っていますから。
いつの間にか後戻りできなくなったり、他人からしたらなんてことないことに刺激されて悪い方向にひた走ってしまっていたり…。
私たちは、そんな難しさを抱えて日々を生きています。
この映画は、描かれているチェットという人物の不安定さによって、かえってそんな両方のニーズをバランスよく満たしてくれるような作品でした。
また、栄光と挫折、再起を描く伝記的作品って、主人公が華麗なV字回復をする姿を描くことが多い気がするんですが、この映画では人生を楽しんでいた頃のチェットはほとんど表現されていないので、よくある有名人のV字回復、というありきたりな感じにまとまっていないところもおすすめポイントの一つです。
ジェーンは私たちとチェットの橋渡し的存在なのでは
あとで知ったのですが、劇中で常にチェットを献身的に支えたジェーンは、実在人物ではないそうです。
人によっては、実在人物を扱っているのに、肝心の人物が実在しないとは!?と受け入れがたい人もいるかもしれません。
でも、私は周囲からはなかなか理解されにくいチェットなりの良さを表現するための橋渡し的な役割を果たしていたんじゃないかと解釈しています。
真意は分かりませんが、チェット・ベイカーという一人の男を観客に知ってもらうための、監督の計らいだったかもしれません。
(違うかもしれません。笑)
もしジェーン以外の存在でチェットの良さを引き出すとしたら、どんな方法があるかと勝手に監督になった気分で思いを巡らしてみたくもなりました。
私にとっての『ブルーに生まれついて』的処方薬の効果
この作品を通して、人間は正しい道が分かっていても、それをひたむきに進めない難しさを抱えて生きていることを、改めて実感します。
でも、そんな難しさを抱えていても、寄り添い、良さを理解しようとしてくれる人があなたの周りにもいるかもしれません。
これからも、私たちは正しい道を進み続けることはできないでしょう。
でも、そんな自分に寄り添ってくれている人のことを思い出すと救われる心があり、相手を大事にしたい心が浮かんできます。
私は、そんな心にしてくれる人たちがいるから、今日も難しさのなかに飛び出せているんだと気付かされました。
この作品を通して、あなたにもそんな『心の変化』が訪れるといいですね。